御前山(ごぜんやま)人の気配がない奥多摩の奥。

東京都の西端には奥多摩湖があり、宿泊登山を計画できる登山道が広がっています。御前山は奥多摩三山の中でも奥多摩湖付近からスタートする山になっています。

御前山に登山客が少ないのは、周辺の山よりもアクセスしにくい場所にあることが考えらえれます。奥多摩駅から西東京バスに乗車するか、マイカーを使用してアクセスしなければなりません。趣味が長く続くようになると、移動時間や交通料金の負担に目安がつけやすくなります。今回の登山はこの2つを少しでも軽減するため、バイクで登山道入口付近の駐車場まで運転して、そこから往復路で登山する方法を計画しました。

※参考文献・サイト:体験の森 東京都奥多摩都民の森 http://www.tomin-no-mori.jp/guide.php

御前山の特徴は分岐地点が多く、時間を調整しながらいろんなコースを歩けます。御前山を案内する本は、ほとんどが西側(バス停:奥多摩湖)から東側(バス停:境橋)への縦走ルートになっています。東京都が管理する「栃寄森の家」は東側ルート沿いにあります。その近くに登山者用駐車場もあるため、バイクで411号線道路の境橋から長い急斜面を一気に標高650mまで登っていきました。到着したのが午前10時前で、駐車場は自分たちのバイクと車一台。

登山者用駐車場からは一般車両が走行できる道路が延びているため登山口まではしばらく歩きます。標高730m地点で一般道路は閉鎖され、ここが登山道入口となります。入口に到着したのは11:00ですが、ここに着くまでに十分な登山活動が開始しています。

※参考文献・サイト:体験の森 体験の森案内図 http://www.tomin-no-mori.jp/websystem/app/webroot/files/hazardmap.pdf?1497321892

御前山の地図の中では、この案内図がいちばん役立ちました。この山には分岐点が多すぎるという特徴があります。御前山には「〇〇の広場」と書かれた場所がたくさんあります。次の広場に到着するまでにたくさんのルートが交差していくため、そこで地図を見ながら適切に進行方向を選択しなけらばなりません。分岐点ではこれと同じ案内図が必ず標示されているため、他の登山マップを使用するよりも、これがお勧めといえます。

登山道に入ってもコンクリートは続いています。これを進むことで南方の「トチノキ広場」へ向かうことができます。周囲には人の声や姿がないため不安を感じながら登っていくことになりました。

この日は御前山の登山道で手のひらより大きい山百合がたくさん咲いていました。撮影を済ませて更に進んでいくとマムシが目の前を横切っていきました。この日は、自分たちが登山道を歩いていると、その気配に気づいた動物たちが森林の中で動く音が聞こえました。マムシの次はクマが道路から草を避けてドサドサと大きく移動していきました。クマはすぐに自分たちから離れるようにして林道の脇から草の茂みを豪快にかき分けていきました。自分たちは動く間もなく唖然としながら立っているだけ。

今回の御前山は、登山の入口付近から凶暴な2匹に出会ったため、山の奥に進むことに対して緊張が走り出しました。蛇や熊の出没率と観光・登山客の数について、どのような関係性があるのかわからないまま登り続けました。

この日は平成29年7月22日です。前回から1か月も経過していません。その時も午前中の出没になっています。鈴やラジオを携帯する登山客に対して「耳障り」という思いを持つのではなく、自分も山に対する安全管理の認識を持ってハイキングしなければならないことを感じました。

ルート紹介から少し話題がずれてしまいましたが、自分たちは南方の「トチノキ広場」へ向かうことを選択しました。登山道からは周囲の山々が綺麗に見えます。御前山の周囲には大岳山、三頭山があり、それらを奥多摩三山と呼んでいます。

トチノキ広場へ到着しました。左の階段は栃寄沢から上がってくるコースです。これを下に行けば「栃寄大滝」を見に行くことができます。しかし、登山者用駐車場を利用された方はここのトチノキ広場から下へ向かい、再びこの場所へ戻ってくることになります。

ちなみに、登山者用駐車場まで上がらずに西東京バスで境橋のバス停からスタートする人もいます。その場合は、上の写真にある栃寄沢の入口から登ることが多いため、栃寄大滝を見てからトチノキ広場へ上がってくることになります。今回は、登山者用駐車場へ上がる途中でバイクを停めて栃寄沢の入口を撮影してみました。

ちなみにトチノキ広場にはトイレやベンチ、案内図があるので、休憩ポイントとして最適です。登山者専用駐車場からここまでは40分でしたが、気温が30℃を越えていたためさっそく500mlのペットボトルを1本飲んでしまいました。

栃寄沢を降りて行くと、周囲が苔だらけ。しかも、森林の葉によって日照の条件はありません。雨が降ることで苔が水けを保持するため、晴れている日でも岩の上に乗るとすぐに滑ってしまう危険性があります。

突然、一緒にいた登山仲間が雄叫びをあげているため、足元を見ると2mを越えた蛇がいました。平均よりも大きなシマヘビ、アオダイショウが住んでいました。私たちは冷や汗を垂らす中、蛇はゆっくり自分たちの足元から離れて行きました。他には40㎝程度のマムシも見かけました。

御前山栃寄沢の特徴は、岩の上で樹木が生えていく大自然の力強さが印象的になります。岩よりも森林の方が頑丈なものに見えてきます。

日照条件のよい場所に抜けると、細い渓流が優しい音を立てていました。登山者が少なくても御前山にはしっかりとした橋が架けられていました。この橋を越えてさらに沢のルートを下まで歩いていくことになります。

想像していたよりも急こう配の傾斜が長く続くルートになっているため、栃寄大滝を見ずにそのまま折り返そうか迷ってしまうくらい下まで降りてしまいます。

「あと少しだけ降りてみようか。」「本当に下に滝があるのかな。」「やっぱり、もう引き返そう。」本当に引き返そうと思う頃に栃寄大滝へたどり着きました。

栃寄大滝は、大きな二つの岩の間から水が降りてきます。岩の間に近づくと、滝の風圧が気持ちよく流れてくるのが分かります。まさにパワースポットといわれていもおかしくない場所で、靴を脱いで裸足のまま滝に近づいたり触れることもできます。

栃寄大滝を見た後は、再びトチノキ広場まで登らなくていけません。栃寄沢は急こう配な坂になっているため、下りと登りの時間に差が出てくることを計算に入れておかなければなりませんでした。先ほど遭遇した蛇たちは、それぞれの場所でまったく位置を変えずに、折り返しを待っているかのように待機していました。

最初の分岐地点となるトチノキ広場へ戻ってきました。今回の御前山はいろんな生き物に触れる恐れがあったため、栃寄沢の往復は暑くても完璧装備で歩きました。

おそらく、トチノキという名称を繰り返していると、「それってなんだろう?」と思う人もいるかもしれません。御前山には「栃の木」という樹木が豊富に生えています。

日本が平成に入るまではこの樹木が道路に多く生えていましたが、その実(栃の実)が路上に落ちることで道路管理の困難がきっかけとなり少しずつ街路樹から姿を消していくことになりました。栃の実は救荒食物として飢饉や災害、戦争に備えて備蓄、利用された食物で、現代でも料理の具材として使用されています。

最初の方で、東京都が管理する「栃寄森の家」を紹介しましたが、そこでは1年間を通して体験の森という活動が企画されています。御前山に多数の活動広場があるため、そこまでの移動手段としてバスが利用されます。

よって、トチノキ広場から上はコンクリートの道を利用し、次の「わさび田の広場」を目指して歩きました。御前山は、こう配の緩やかな山道がないため、初心者はこの道を登ってコンクリートが終わるところまで標高を稼ぐ方法をお勧めします。

また熊の目撃情報がありました。スタート地点では、平成29年6月29日の目撃情報でした。こちらは、平成28年10月15日になっています。今回の目撃を含めれば、一年以内に3回出没したことになります。

今にも動物が出て来るんじゃないかというくらい、周囲には人がいません。ビクビクしながらも15分程度で「わさび田の広場」へ到着しました。わさびがたくさん生えていることをイメージしていましたが、1本も生えていませんでした。特別な植物があるわけではなく寂しい場所になっていたため、休憩をせずにそのまま次を目指しました。

わさび田の広場を過ぎると、コンクリートの道が土に変わります。ここからは、「活動の広場」を目指して登っていきました。ここで途中で雨が降ってきたため、もう一度雨具を着用することになりました。

「活動の広場」に到着しました。わさび田の広場から15分程度になりました。

水場がありました。上の写真はトイレですが、正面は休憩所できるためのベンチがあります。

「トイレのマークがあるのにどこで済ませるの…!?漏れる!!」という焦りを持たせてしまうかもしれませんが、裏へ回ると個室トイレが男女別で完備されています。御前山のトイレは、登山者が少ないため匂いや汚れはひどくありません。しかし、昆虫がトイレに住み着いているため、男女問わずドアを開けたらすぐにズボンを脱がないように注意しましょう。便器や壁、足元を見るだけではなく、天井の様子やトイレットペーパーの有無を確認してから。

上には大きな山小屋がありました。2つの扉がありますが、どちらも施錠がかけられ中を確認できません。しかし、座る場所は設けられているため休憩や雨宿りにはいい場所かもしれません。

バスで来ることができるのは、活動の広場までとなります。活動の広場を過ぎると大きなカツラの木が生えていました。そのカツラの木が分岐点でカラマツの広場、シロヤシオの広場、メグスリノキの広場へ向かうことができます。

自分たちが次に目指したのは、「カラマツの広場」でした。この日は雨が降ったりやんだり、温度や湿度が急変するため山霧が発生していました。下の方で歩いた栃寄沢は岩と苔が多く滑りやすい条件でしたが、上の山道は土が多く足への負担がそれほどありませんでした。

20分程度で「カラマツの広場」へ到着しました。ベンチやテーブルが広場に多く設置されています。真ん中には屋根つきの休憩場所があったため、濡れた雨具を干してしばらく休憩をとりました。

御前山を登山していると小さな芋虫が洋服にくっついてくることがよくありました。芋虫が成虫になると蝶々になることをご存知だと思います。御前山はその芋虫が多いだけに、山道では色んな模様の蝶々を見ることができました。

次は「湧水の広場」へ到着しました。暑さによって体力の消費が大きくなっていました。過剰な口渇によって、身体が水分を余計に欲しがりました。湧水という文字があるだけに期待を膨らませてしまいましたが、水源は枯れて水が湧いていませんでした。スマートフォンを取り出すと、電波がないことに驚きました。しばらくするとすぐに電波が復活。Wi-Fiも繋がりました。広場から離れてコースを歩くと電波がなくなりますが、緊急時のために各広場で電波が配信されています。

カラマツの広場の次は「御前山避難小屋」を目指しました。上の写真は避難小屋の中の写真です。とても広く綺麗に管理されていたのが印象的でした。この日の利用者は一人。その人は小屋の前で料理をしていました。その人は御前山避難小屋を多く利用していることを教えてくれました。

バーナーや飲料水、食料品を持ち込み、キャンプを楽しんでいるようです。自分も真似をしたくなるくらい羨ましい様子を目の当たりにしました。御前山の山頂は展望が良くないため、ここで登山靴を脱いで身体をしっかりと休めながら食事休憩をとるのがお勧めです。

御前山避難小屋で小休憩をとった後は、一気に御前山の山頂を目指しました。山頂付近も傾斜が厳しくなっていますが、足場は石や岩が少ないためバランスを崩しやすい歩きにはならないことが考えられます。体力は大きく消耗しますが、登るコースに関しては決して転倒や転落リスクの多い山ではありません。

登山者用駐車場からスタートし、御前山の山頂まで4時間で到着しました。栃寄大滝を見るためにスタート地点よりも標高の低いところまで降りて往復したため、滝を見ないで真っ直ぐ登ってくれば1時間以上の短縮も可能です。

御前山の山頂は周囲の樹木によって展望ができません。ベンチはありますが、他の山の頂上に比べると物寂しい印象を持ちました。御前山の標高は1405mで、登山用駐車場は650m。ここまで755mの標高差を登ってきました。境橋バス停は標高394mになるため、いちばん下から登った場合は1011mの標高差を上がることになります。

御前山の頂上から西側にはシダクラ尾根という登山道が続いています。それを歩いていくと惣岳山に到着します。シダクラ尾根の途中には、富士山を展望できる場所があります。上の写真のとおり、この日は山霧が広がり富士山を展望することはできませんでした。

御前山から惣岳山まではゆっくり歩いても15分で到着することができました。こちらも御前山の頂上と同じく、周囲の展望が良くありませんでした。

じつは、御前山には西側の奥多摩湖バス停からスタートするパターンもあります。そちら側から登ると、最初に到着するのは標高940mのサス沢山で、そこから西側に奥多摩湖を見下ろせる景色が待っています。また、東側には惣岳山と御前山の並んだ景色や、南側には三頭山の景色もあります。

今回はバイクで御前山に来たため縦走ルートを選ぶことはできませんでした。「スギの木広場」を通って登山者用駐車場まで降りて行くことにしました。惣岳山からスギの木広場までは40分と案内されていますが、登山に慣れている方であれば走らなくても半分の時間で降りることが可能です。

御前山の奥は樹木が多く生えているため地面への日差しが弱く、晴れていても土がなかなか乾かない状態になっていることが考えられました。湿度が多いため、岩にはしっかりと苔が生えています。やはり、降りる途中で滑りやすい場所がいくつもあり、登山靴が濡れたり泥で汚れてしまいます。汚れや水分の残留は登山靴のポリウレタン樹脂の劣化を加速させるため、帰宅後はしっかりと手入れが必要となります。汚れを除去し、風通しのよい場所で乾燥させるだけで登山靴の寿命は延びるといわれています。

次は、「メグスリノキの広場」です。この木は千里眼の木とも呼ばれ、戦国時代は樹皮の煎汁を目薬に使用していた歴史があります。司馬遼太郎の本でも、戦国時代の武将がメグスリノキから目薬を商品化して巨万の財を手に入れたことが書かれています。

次に到着したのは「ヒノキの広場」です。メグスリノキの広場から15分になります。大きな広場で、動物の進入を防ぐために網で囲まれています。

ヒノキの広場からはスマートフォンの電波も良く、安心して降りることができます。

ヒノキの広場から40分で登山道入口に降りてきました。地面には、小さな頃を思い出させるミヤマクワガタがゆっくり動いていました。スタート地点側に戻り周囲を見ると登山中の雨が嘘のように乾いたため、同じ山の中でも場所によって天気が異なることを知りました。山霧は局所的な雨を降らすこともあるため、あらためて雨具の大切さを体験できました。

御前山は日本百名山に比較すれば標高の高い場所ではありません。しかし、奥多摩の中では雲取山の隣りに位置し、登山ルートが多く選択できる山です。分岐地点が多くあるため、登山ガイドによって紹介されるルートが違ってくることも考えられます。何度行っても登山者を飽きさせないルートになっているため、一期一会にするのではなく何度も登って山の特徴をつかんでいくことが必要となります。











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